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CATのアメリカ東海岸留学

CATのアメリカ東海岸留学

中位以下の公州立大の実状

アメリカ人が日本人はいまだに刀を差して歩いていると思っている(ってのは
さすがにもうないか?)のと同じように、日本でアメリカはこう、と実態と
そぐわないイメージが勝手に一人歩きしているケースが色々ある。

その一つに「アメリカの大学は入りやすく卒業が難しい」ついでに言えば、
それゆえ「アメリカの大学を卒業するなんてすごい」というイメージがある。

この誤解を説くために「米大卒業は難しくない」というページを書いたりした。

「コミカレははじまりのはじまりにすぎない」というエントリー(コミカレで
いい成績をとるのは難しいことではないという内容)もその派生ネタだ。

さて、ひょんなことからアメリカの中位以下の大学(特に公・州立大学)の
実状を表しているウェブページを見つけたので、解説してみようと思う。

“Student Retention and Graduation Rates- Boise State University”

このページには、アイダホ州ボイジー州立大学のドロップアウト率と卒業率
に関する分析が載っている。

グラフを見てみると、新入生の4割は最初の一年でドロッアウト入学から
4年で卒業する学生は新入生の5%
程度で、6年目でやっと26%に到達。

この数字をストレートに日本の尺度で解釈すると、アメリカの大学はなんて
厳しいんだ、ということになるけれど、それは必ずしも当たっていない。
なぜなら上位校の卒業率は軒並み90%を上回っているわけで、そもそも
上位校に入れる学生にとっては卒業のハードル自体はさほど高くないと
思われるからだ。

ページを読み進めてみると、なぜ卒業率が低いのかを分析している部分がある。

・25歳以上の学生が多いため。
・学費等がまともに払えない層の学生が多いため。
・そもそも大学レベルの学習についていけない入学生が多いため。
・ 親が大卒でない(つまりこれまで親から十分な準備教育を受ける機会がなく、
 大学生活に関しても親の助言等を期待できない)入学生が多いため。
・通学生(つまり勉強に集中できない)が多いため。
・LDSミッション(宗教勧誘)参加のために途中退学する学生が多いため。

以上6項目。

・25歳以上の学生が多いため。

しょっぱなから日本の大学のイメージからかけ離れているんじゃないかな。
でも自分が通ったしょぼい四大の学部生の平均年齢は26歳だった。

これらの人たちは、学歴社会アメリカの中で生き残っていくために、
一度社会に出てから大卒の資格をとるために大学に戻ってきた人たちだ。
働きながら大学に通っているのでクラスも少しづつしかとれず、卒業まで
何年もかかる。当然、途中で気力がつきてドロップアウトしていく人も多い。

・学費等がまともに払えない層の学生が多いため。

十分な資金を準備していることが前提の日本からの留学生だったらありえない
話だけど、これから日本でもさらに深刻になっていくであろう「格差社会」の
先進国たるアメリカの姿として心にとめておく必要はあると思う。
州にもよるけど、アメリカは州の住民であれば、州立大学の学費は日本人の
感覚からすればかなり安いことが多く、それすら払えない人がいるってこと。

・親が大卒でない入学生が多いため。

3項目目は飛ばして4項目目。これも「格差社会アメリカ」の問題の一つ、
「格差の固定化」。(格差が世代を超えて固定していく現象。)日本の格差
社会化に警鐘を鳴らしている人でこの問題を指摘している人もいるけれど、
日本ではまだリアリティがないために、あまり注目されていないように思う。

・ 通学生が多いため。

これはなんだか日本と逆だね。日本だと下宿とかすると、むしろ遊んでしまう
というイメージがあるけど、アメリカの場合「通学生でない」ということは
つまり「寮に入っている」というケースも多く、そこでけっこう切磋琢磨して
勉強したりするんだよね。

そんな事情からか、上位校などでは入寮を義務づけているところもある。

・LDSミッション(宗教勧誘)参加のために途中退学する学生が多いため。

これはアイダホ州特有の問題かもしれない。ユタ州とならんで、アイダホ州
にもモルモン教徒がかなり多くいる
ことはあまり知られていないと思う。

ちなみにモルモン教にからんで、ユタ州に留学するのであればこれだけは
留意しといたほうがいいということを、「ユタ州への留学」にまとめてある。

さて、最後に3項目目。

・ そもそも大学レベルの学習についていけない入学生が多いため。

アメリカの中位以下の大学(特に公立大学)は、大学に行けなかった人に
敗者復活の機会を与える、特にそのうちの「機会を与える」という役回り
が大きく、結果として敷居が非常に低くなっている。

「大学に行けなかった」のは当然「そもそも大学レベルの学習について
いく能力かった」という理由も考えられ、結果としてそういう人たちは
卒業できずにドロップアウトしていく。

このあたりが出願者に「入試」をいう振るいをかけて、入学後に授業に
ついていけそうもない学生は、最初から門前払いをする、逆に言えば、
入試に通ったからには、十分な学習能力を備えている「はず」なので、
基本的に卒業させる、というのがタテマエの日本のシステムと根本的に
違うところだと思う。

だた大学全入時代をむかえてそのタテマエが崩れ初めているらしく、
日本でも大学卒業時に一律に卒業認定試験のようなものを課すという
動きもあることは、過去のブログエントリーでも触れた。

一方、アメリカは大卒資格への(大卒資格は、学歴社会アメリカにおいて、
将来の地位や収入に非常に大きな意味をもつ)門戸は広く開かれている。

その一翼を担っているのはコミカレ。そしてもう一翼は地元密着型の四年制
大学(特に州・公立大学)だ。

というわけで、コミカレは原則出願者全入のところが多く、地元密着型の
四年制大学もハードルを低く設定し、大学で必要な学習能力に達していない
可能性のある出願者も、とりあえず受け入れるという姿勢だ。

つまり極端な話、アメリカの地元密着型大学の卒業率の低さは日本だったら
入試でふるい落とされるような出願者まで受け入れているからとも言えるわけ。

(一方、全入時代を迎えて、今までのように入試でふるい落とすわけにも
いかず、さらにこれまで守ってきたタテマエの足かせのせいで、それでも
ほとんど全員を卒業させなければならないという輪廻にはまってゆくかも
しれない日本の大学システムは、かなり重傷なのかも。)

自分の通っていた地元密着型の大学の当時のアドバイザーと話した時に、
学生の事を「カス」呼ばわりしていたエビソードは「MTSU時代」にも
書いた。なんて酷いことを言う人だと思うかもしれないけど、半数以上の
学生が何年も何年も同じ1年生レベルのクラスで落第を繰り返すという
環境の中では、教える側もやる気を無くすと思う。

「自分は自分」というスタンスでいけばあんまり関係ないという考え方も
あるかもしれないけど、周囲の連中がそんな連中だという現実からは逃れ
られない。自分もグループワーク(グループでこなさなければならない課題)
などで辛酸をなめさせられた。

なにはともあれ、結果的にそのような大学から卒業できる人は、最終的に
どのような大学であれ、「アメリカの大学というもの」から卒業できるだけの
素質を元から備えていたとも言えるわけで、アメリカ人のように、仕事や
家族の事情で「地元」にしばられることのない留学生の場合、わざわざ学習
環境の良くない地元密着型大学を選択することはないような気もする。

日本的感覚だと、大学のレベルを落とせば入学難易度や卒業難易度が下がる
と思いがちだけど、アメリカの場合、その考え方もちょっと当たっていない
ように思うしね。(「エコノミーorビジネス?」参照。)


sanfrancisco_catさんのコメント:
うちの大学(学部)は、レベルが低いと評価されてます。理由は「中退者」多いから。
でも、州立大の宿命ですよね。違うのかな?

CAT0857のレス:
まあ、catさんの出身校の卒業率は全米的に見れば非常に高いと思いますけどね。
それでも私立にかなわないのは、catさんのおっしゃるとおり、公立(州立)ならではの
足かせというのがあると思います。例えばマイノリティーを全学生の何%受け入れなければ
ならない、など。
事の善し悪しはともかく、こういった公立ならではのポリシーのから逃れるために、どこの
州立大学も自己資金調達率を上げて、できるだけ州政府の支配から逃れようとするわけです。
面白いのは政府予算の割合からいけば、アメリカの有力州立大学は軒並み日本の私立大学以上に
私立大学だってところですね。ということは極端な話、日本の私立大学はアメリカの州立大学
よりも文科省の言いなりにならざるをえないとも言えるわけです。

ひよこまめ2006さんのコメント:
今回のシリーズ、興味深く読ませていただきました。
この辺のことって、いわゆる留学マニュアル本にも書いていないと思うので、これから留学を
考えている人には、是非こちらのブログを一読するように強く勧めたいと思います。
やっぱり、CAT0857さん、本出せばいいのに(笑)。
私がアメリカの大学を卒業してから感じたことは、思った以上に卒業大学の名前がついて回る
なー、ということです。私の場合は、仕事柄というのもあるかもしれませんが。そういう意味
でも、やっぱり多少背伸びしてでも、いわゆるレベルの高い/名の通った大学に行って
おいたほうが何かと有利なような気がします。

CAT0857のレス:
「本当のこと」を、「平等な目」で書いてしまうと確実に留学志望者が減ってしまうので、
留学系の出版社はこういった、留学を商売にしている立場にとっては不利な内容の本は絶対
出版したがらないだろうし、本を出したところで絶対に売れないと思います。
とにかく「留学する」と決めてかかっている人にとっては必要ない情報だろうし。
卒業大学の名前がついて回るというのはその通りだと思います。日本の学閥ほどではないけど
アメリカでもさすがにどこの大学や大学院を卒業しても、大卒や院卒として扱いが同じという
ことはさすがにないですね。そういった意味でも「腰が引けている」留学(あえて格下の大学
を選んでしまうパターン)はもったいないと思います。せめてもし最初に行った学校が物足り
なかったらどんどん転校をしてみて欲しいものです。「MTSU時代」の中でも、「出身
大学の名前は一生ついてまわるよ」とアドバイスされ、それがトランスファー(転校)の
きっかけの一つになったというエピソードを載せてます。


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(2008年1月13日更新)

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